【短歌連作】「最悪の世界の手前に足かけて転がり落ちていた十六歳」

動けない体のなかで死にたいと死にたい死にたい命泣いてた

今ここでなんと名乗ればよいですかドクターストップ中卒ティーン

書きつなぐ命の綱があったけどそばで構える暗黒の鎌

一生涯おひさま見ることないだろう精神病棟つきあかり射す

ご家族が悲しむなんて生ぬるいセリフで孤独を叱るなつらい

最悪の世界の手前に足かけて転がり落ちていた十六歳




13歳、身体がうごかなくなった。

立ちくらみで、歩けるようになるのに3分かかる。

不眠で、夜中を通り越してしののめの光が射すまでねむれない。

ベッドへ寝ると起きあがれなくなるので、椅子に座ったまま眠った。

いや、どう見ても考えても、うつ病とかそっち系の病気なのである。

情報をあつめ、泣きつき、両親をひきずって病院に行き

ヤブ医者に引っかかるなどお決まりのコースをたどったのち

正式にくだった診断名は――

うつ病と自律神経失調症と月経前症候群とえーとえーと……

ま、いろいろと見つかった。

原因は学校のいじめ、というよりも学校に対する一種の適応障害のようなもので

おそろしいことに両親は「行けばなんとかなる」という一昔前の哲学でもって

食欲もなく、免疫力も低下して月の4分の3不調で寝込む私を

学校に送り出していた。

思考停止ってほんとうにおそろしい。よいこの親御さんはぜひ真似しないでいただきたい。

なんでってその後の医療費のかかりがバカにならなかったのである。

ともあれ。

「もう学校行くな」というありがたいドクターストップにより

また私も

「学校なんざ行かなくても勉強はできる」とタカをくくって

高校への進学をせず、

高等学校卒業程度認定試験……と、名前はながったらしいが、

昔の「大検」を受けて大学へ行こうと方針を固めた。

以上、これが14歳ごろのおはなし。

この短歌連作は「16歳」を追想して詠んだものだが

この時期の詠み手=私はどうだったかというと、

身体がまったく動かなくなり

極度のうつ状態で、病状としては「重度」に分類された。

うつ病の真のおそろしさは、希死念慮(いわゆる「死にたい」)ではない。

身体が動かなくなる、思考力が鈍るという

「無力感」「虚無感」「絶望感」

である。

いみじくもキルケゴールは「絶望とは死に至る病」と言ったが

「身体が動かなくなる、なにもできなくなる、絶望」から

死にたくなったのである。いや、いま思えばね。

動けない体の中で、わたしは死にたいと泣いていた。

さてここで喪失していたのは

わたしの「社会的地位」である。

「ご職業は?」と訊かれるアンケートなどではかなり難渋した。

無職、ニート、家事手伝いなどあまりうれしくない名称を書いていたが

自分が社会でどこにいるのかわからなかった。

すくなくとも、日のあたる場所にはいなかった。

しかしここで幸いだったのは、私に「生きる希望の命綱」があったことである。

すなわち、小説とかを書くことであった。

んもう、これしかない、今もこの「文章を書く」という一芸以外になにもないが

まあなにもないよりはマシである。

とはいえ、常に「絶望」は内側からも外側からも

じわじわと侵食して来、

私は死神の鎌を感じていた。あとすこしで、狩られるところだった。

マジで。

このままだと、死ぬ。

と、本格的な危機感と恐怖、それになによりも苦痛にたえがたく

精神科病院にも2回入院した。

初日の、鉄格子の隙から射すあざやかに白いつきあかりが、その冴えたうつくしさが

今も忘れられない。

あのころは魅入られたように、月を見上げたものだ。

もちろん自殺となるとお決まりのセリフが

「ご家族が悲しむからやめなさい」

ってやつである。

こんな安易な言葉で苦痛と絶望のなかの人間を叱らないでいただきたい。

あまりにも無責任だ。いまだに腹が立つ。

私をここまで悪化させて放置しておいた家族なんか

私にはどうでもよろしい。せいぜい苦しむがよい。

当時私はそう思っていた。いまもわりとそう思っているフシはある。

理由は、上へスクロールして序盤をもう一度読んでいただければわかるはずだ。

16歳。

ここからまだまだ転落していくのが人生のおそろしいところだが

ここではもう文字数も迫っているので書くことはすまい。

どちらにせよ「16歳」は、暗黒の淵にふっと足をふみはずして転がり落ちる

そのはじめのころであった。

「お日さまのあたる野原にいきたい」――

強い願いをこめて、ペンネームをつけた。

それが現在の、〈日野成美〉である。

そして私はいま、日の当たる場所で、あかるい幸福へむけて歩いている。


*この記事は別サイトで詠んだ短歌をブログでまとめたものです。*

お読み頂きありがとうございました。

ではまたネットの海で。

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